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東京地方裁判所 昭和46年(ワ)9248号 判決 1975年8月29日

原告

柳沢ふぢ子

右訴訟代理人

中村茂八郎

被告

両角助蔵

右訴訟代理人

薗田一男

被告

右指定代理人

前蔵正七

外四名

主文

一  被告両角助蔵は原告に対し、別紙目録(二)記載の建物を収去して同目録(一)記載の土地を明渡し、かつ二六万円およびこれに対する昭和四六年一一月五日以降完済に至るまで年五分の割合による金員ならびに昭和四四年一一月一日以降前記土地明渡済に至るまで一ケ月五、〇〇〇円の割合による金員の支払をせよ。

二  原告の被告両角に対するその余の請求を棄却する。

三  被告国は原告に対し、別紙目録(二)記載の建物から退去して同目録(一)記載の土地の明渡をせよ。

四  訴訟費用は全部被告等の負担とする。

五  この判決は原告勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

六  被告国が一〇〇万円の担保を供するときは前項の仮執行を免かれることができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一、原告

被告両角助蔵は原告に対し、別紙目録(二)記載の建物を収去して同目録(一)記載の土地を明渡し、かつ二六万円およびこれに対する昭和四六年一〇月三一日以降完済に至るまで年五分の割合による金員ならびに昭和四四年一一月一日以降前記土地明渡済に至るまで一ケ月五、〇〇〇円の割合による金員の支払をせよ。

被告国は原告に対し、別紙目録(二)記載の建物から退去して同目録(一)記載の土地の明渡をせよ。

訴訟費用は被告等の負担とする。

旨の判決ならびに仮執行の宣言。

二、被告両角

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

旨の判決。

三、被告国

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

旨の判決ならびに担保を条件とする

仮執行免脱宣言。

第二  主張<以下略>

第三  証拠<略>

理由

一(原告の土地所有権取得)

(一)  <証拠>によれば、次の事実を認めることができる。

1  昭和三六年三月頃原告の亡夫柳沢隆平が被告両角から、同被告が東京都千代田区神田神保町で郵便局を開設するための資金の借受方を申込まれたことから、原告は同年一二月中、被告両角に対し三〇〇万円を利息は年八分とし、弁済期の定めなく貸与した。その際、原告と被告両角との間で、右貸金債権を担保するため、同被告が局舎用地として購入すべき本件土地の所有権を原告に移転し、同被告が借受金を弁済したときは所有権を返還することを約した。そして、被告両角がその頃本件土地を購入して所有権を取得したので、右約定に基づき右所有権は原告に移転し、原告は同月二二日本件土地につき中間省略登記の方法により被告両角の前所有者寺本ミヤエから直接原告に対する所有権移転登記(登記原因は売買)を経由した(被告両角がもと本件土地の所有者であつたことおよび上記登記の事実((但し登記原因を除く。))は当事者間に争いがない。)。そして、被告両角は本件土地上に本件建物を所有して本件土地を使用してきた(本件建物が被告両角の所有であることは当事者間に争いがない。)。

2  前記貸金の利息は地代名義で支払う定めであり、後に原告あるいは亡夫隆平(昭和三七年九月死亡)が被告両角に別途に金員を預託するようになつてから、右利息は当該預け金に月々加算する方法がとられることとなつた。ところが、昭和三九年頃から右預け金に関する被告両角の報告中に利息加算がなされなくなつたので、原告は被告両角に対し前記貸金の返済を請求するようになつた。これに対し、被告両角は言を構えて猶予を乞うのみであつたので、原告は昭和四一、二年頃から弁護士訴外中村茂八郎(本件原告訴訟代理人)に依頼して種々折衝を行い、結局、昭和四四年一〇月三〇日に至り、原告の代理人中村弁護士と被告両角との間で確認書を取交わし、(1)被告両角は本件土地の所有権が原告にあることを確認すること、(2)原告は被告両角に対し、本件土地を賃料一ケ月五、〇〇〇円、毎月末日持参払、被告両角が賃料を五ケ月分以上遅滞したときは、通知催告を要しないで当然に賃貸借契約は解除されるものとして賃貸すること、(3)被告両角が昭和四五年六月中に三〇〇万円を弁済するときは、原告はこれと引換に本件土地の所有権を返還することとし、原告は右期間内には本件土地を第三者に対し処分しないこと、但し、被告両角が前記期限を徒過したときは、通知催告なく当然に、前記権利および利益を喪失すること等を合意した。

3  ところが、被告両角は昭和四五年六月末日までに三〇〇万円を弁済しなかつた。

このように認められる。被告両角本人の供述中右認定に反する部分は信用できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

(二)  以上の認定事実によれば、昭和三六年一二月中原告と被告両角との間に成立した本件土地を担保とする信用の供与は、原告が被告両角に対し貸金の返済を請求していることおよび確認書形式の合意の内容に照らして考えると、信用の供与を貸金債権の形式で存続させ、信用を与えた者がその返還を請求する権利を保有し、これに応じないときは目的物によつて満足を得ようとする趣旨であると認められる。これを売渡抵当とみることは無理であつて、その法律的性質は譲渡担保であると解される。そして、右譲渡担保は、前記確認書形式の合意によつて補完されたところからすれば、債務不履行があれば目的物の所有権は、当然に、確定的に、譲渡担保権者に帰属する約旨であつたと解するのが相当である。従つて、被告両角が前記確認書形式の合意で定められた弁済期である昭和四五年六月末日までに三〇〇万円を返済しなかつた以上、本件土地の所有権は、当然に、確定的に、原告に帰属した(日時および原因の点を除き原告が本件土地の所有権を取得したことは被告国の認めるところである。)。

二(本件土地の賃貸借と解除)

(一)  本件土地の利用関係が当初から賃貸借の性質を有していたとは認め難いが、後に前記確認書形式の合意により賃貸借の約定がなされたことは前認定のとおりである。しかし、原告が昭和四五年六月末日の経過とともに本件土地の所有権を確定的に取得した以上、本件土地をもつて被担保債権の弁済に充てる実効を収めるため本件土地の引渡を請求しうることは当然である。

このように当然帰属型の譲渡担保において、譲渡担保権者が債務者の債務不履行によつて、当然に、確定的に、目的物の所有権を取得し、その引渡を請求しうることとなつた場合においても、譲渡担保権者が該引渡請求権の行使を控え、従前どおり目的物を債務者に賃貸することはなんら妨げられないであろう。本件においても、原告本人尋問の結果によれば、原告は被告両角側の申入を受けて、本件土地の引渡請求を控え、引続き被告両角に対し本件土地を賃貸することとしたことが認められる(右認定を左右するに足る証拠はない。)。

そこで、このような賃貸借契約を賃料不払を理由として解除しうるかどうかを検討する。

所有権の確定的帰属が未定の間においては、譲渡担保権者が債務者の賃料不払を理由にして賃貸借契約を解除することは――実質的には利息であるものの延滞によつて担保物を処分する権利を肯定することに帰着するが故に――原則として許されないとしても、譲渡担保権者が前記のように目的物の引渡請求権を取得しながら、その行使を控え、引続き債務者に目的物を賃貸した場合には、賃料不払を理由とする解除は有効と解すべきである。蓋し、当該譲渡担保において特別の意思表示または特段の事情があつて、譲渡担保権者が目的物をそのまま元利に充当して精算の必要がないとされる場合(流担保型)には、譲渡担保権者が債務者の債務不履行によつて目的物の所有権を当然に確定的に取得する時点における元利に対する充当が行われるのであるから、その時以後利息の存在する余地がないのであるし、また当該譲渡担保が精算を必要とする場合(精算型)であつて、しかも本件のように債務者が債務不履行と同時に受戻権を失う特約が付されているときは、譲渡担保権者は債務不履行と同時に自己に帰属した目的物を評価して差額を債務者に返還することとなるが、右精算は所有権取得の時点における元利と目的物の評価額との差額についてなされるのであるから、これまた所有権取得時点以後利息の観念を容れる余地がないからである。

(二)  本件において、原告本人尋問の結果とこれにより成立を認めうる甲第四号証の一によれば、被告両角が昭和四四年一一月以降の賃料の支払をしなかつたことが明らかである。原告は五ケ月分以上の賃料の不払を理由とする当然解除の特約により、本件土地賃貸借契約は昭和四五年三月三一日の経過とともに解除された旨主張するが、右主張は、第一に、前述のとおり所有権の確定的帰属の未定の間においては賃料不払を理由とする解除は許されないこと、第二に当然解除の特約の効力をそのまま是認できないことからいつて、採用できない。

しかし、前記証拠によれば、被告両角は、原告が本件土地の所有権を確定的に取得した後である昭和四五年七月分の賃料をも支払わず、原告の支払催告にも応じなかつたことが認められる。従つて、原告はこれを理由に本件土地賃貸借契約の解除権を取得した。なるほど、被告両角の賃料不払は一ケ月分のみであるが、後述するように被告両角が昭和四〇年七月以降昭和四四年一〇月分までの賃料合計二六万円をも支払わなかつたこと、この期に続く昭和四四年一一月ないし昭和四五年六月分についても同様であること(この事実は、たとえ右賃料が名義だけのもの(使用貸借時代)あるいは貸金の利息の実体を有するものであるにせよ、被告両角の債務者としての極度の不誠実性を如実に示すものである。)をあわせ考えると、一ケ月分の賃料不払を理由とする契約解除の効力を信義則の見地から否定することは適当でない。

そして、前記甲第四号証の一は原告の代理人中村弁護士の被告宛昭和四五年八月二二日差出の内容証明郵便であり、「貴殿は(中略)昭和四四年一一月分以后の毎月の賃料の支払を今日まで一回もしない。よつて五回以上の遅怠により右土地の賃貸借契約は当然解除となる旨の右確認書第二項(ロ)但書の約定(前記確認書形式の合意中の当然解除の特約を指す。)により右賃貸借契約は解除となつた。(中略)貴殿は右建物を収去して右土地を明渡す義務がある。」旨記載されており、<証拠>によれば、右内容証明郵便は昭和四五年八月二三日被告両角のもとに到達したことが認められ(内容証明郵便到達の事実は被告両角の認めるところである。)、右内容証明郵便には昭和四五年七月分の賃料不払を理由とする契約解除の意思表示が包含されているものと認められるから、本件土地賃貸借契約は昭和四五年八月二三日限り解除された。

三(準消費貸借)

<証拠>によれば、原告と被告両角は昭和四四年一〇月三〇日、被告両角が支払を遅滞していた昭和四〇年七月以降昭和四四年一〇月分の賃料合計二六万円を目的とし、弁済期の定めのない準消費貸借契約を締結したことが認められる。右認定に反する被告両角本人の供述は信用できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

そして、原告が昭和四六年一〇月三〇日被告両角に送達された本件訴状をもつてその返還を催告したことは記録上明らかである。

四(被告国の土地占有)

被告国が昭和三七年頃被告両角から本件建物を賃借し、現在北神保町郵便局局舎として使用し、本件土地を占有していることは当事者間に争いがない。

五(結論)

以上によれば、

1  被告両角に対し、賃貸借契約終了に基づく原状回復として本件建物を収去して本件土地を明渡すとともに、準消費貸借金二六万円ならびに昭和四四年一一月一日以降昭和四五年八月二三日までの間一ケ月五、〇〇〇円の割合による賃料、昭和四五年八月二四日以降本件土地明渡済に至るまで同じ割合による賃料相当額の損害金の支払を求める原告の本訴請求は正当として認容すべきであるが、準消費貸借金二五万円に対する遅滞損害金は前記訴状による催告の時から相当期間の経過した昭和四六年一一月五日以降完済に至るまで民法所定の年五分の割合によるその支払を求める限度において理由があり、その余は失当として棄却すべきである。

2  被告国に対し所有権に基づき本件建物からの退去および本件土地の明渡を求める原告の本訴請求は正当として認容すべきである。

3  よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条但書、第九三条を、仮執行の宣言および仮執行免脱宣言につき同法第一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(蕪山厳)

目録<省略>

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